2009年05月16日

金融危機、あるいは初心者のためのサブプライム入門

僕が「金融」について勉強を始めたのは去年の秋頃である。リーマン・ブラザーズが経営破綻し、世界の景気がリアルタイムで悪化するなか、僕はひとりセコセコと「株取引」や「外国為替」について学んでいた。
 
このような投資暗黒時代に株に興味を持った理由は?
 
うーむ、気が付いたら勉強していたというだけなのだ。その頃から僕は会社設立の野望を抱いていて、経営者になるからには“財務諸表を読み解くスキル”が必要になるだろうと考え、会計関連の書籍を何冊も読み漁っていたのである。
 
投資と財務諸表。それら2つの要素は“ファンダメンタル分析”という相場予測の手法において関連付けられている。トレーダーには周知の通り、株(または外国為替証拠金取引)には、買い時と売り時を見極めるのに、テクニカル分析とファンダメンタル分析という2つの方法が用意されている。テクニカル分析とは、純粋にチャートの動きから今後の値動きを予測するもので、その中身は移動平均線やボリジャーバインドなど、さらに細かな分析によって成る。一方のファンダメンタル分析とは、財務諸表など基礎的なデータから、会社が本来持っている実力を見極めて値動きを予測するものであり、有名なウォーレン・バフェットもこの法則にしたがうものである。
 
(…そうです。僕は「財務諸表の読み方」を学んでいて、気が付いたら財務諸表から株価の推移を分析するという分野にまで手を伸ばしてしまったのでした…。)
 
僕が学んだ背景はさておき、当時のリーマン・ショックがトレーダーに与えた影響は計り知れないとされる。しかし、このリーマン・ショックとやらはどういった原因で起こったものだろうか。
サブプライムローンが問題になっていることだけは広く知られているけれど、それでは、サブプライムローンとは何なのか。それが何故「100年に一度」とまで言われる“世界的不況”を巻き起こすに至ったのか。ここはひとつ、季節外れのサブプライム問題:復習編といこうではありませんか。
 
 
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サブプライムローンは、低金利で住宅ローンが組めてしまう借金返済能力が低い人(低所得者)のために用意された住宅ローンと言われています。ようするに、クレジットカードを持てないような「信用力の低い人」にも、住宅購入のために救いの手を差し伸べるもので、この夢のようなローンが登場したことで、当時のアメリカは空前の住宅ブームとなりました。
サブプライムローンは後になればなるほど利率(返済金額)が高くなるというローン地獄が待ち受けているのですが、まんがいちローン返済が出来なくても、その頃には住宅ブームで住宅価格も上がっているはずだから、所有している住宅を売り払えば、埋め合わせは十分に可能であると思われていました。つまり、サブプライムローンは「住宅価格が上昇する」という前提があって、はじめて成立するものだったのです。
 
さて、低所得者の返済能力が高かろうが低かろうが「ローンが組まれている」という事実にかわりはないので、そこに「定期的な支払い債務」が発生するということは間違いありません。
問題とされるのは、その支払い債務を証券化(サブプライムローン証券化)しようと企んだ連中がいたことです。
簡単に言うと、A君と金融機関の間で交わした「毎月10万円の家賃支払い」という債務を金券にして、「この金券を持っているだけですごい価値がありますよ」といった具合に、第三者のB君に売りさばく商売を始めた連中がいたわけですね。ただ、こうした住宅ローン担保証券は、投資家(B君)の側からすると非常にリスクの高いものでした。確かに高金利を生んでくれて魅力的な証券に見えるのですが、低所得者A君がローン返済続行不能になれば、B君にも損失がまわってくるのです。
そこで金融機関は、この住宅ローン担保証券に別タイプのローン証券をいくつかチョイスして、ワンパックセットでの販売を開始することにしました。ようするに、サブプライムローン証券は住宅価格と連動して値動きするような“金券”ですので、この住宅価格連動型証券に、住宅価格とはまったく異なる値動きのする商品を組み合わせることで、損失のリスクを見えにくくしたわけです。
さらに、ワンパックセットの中に「毒リンゴ」が混ざっていたら(債務返済が出来ないようなローンが発生したら)、購入者のB君に代わって、保険会社がすべてを補償してくれるというサービスまであり、この保険はCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)と呼ばれています。
保険(CDS)がついているのだから、購入者のB君からしてみればワンパックセットの中に毒リンゴが混ざっていても(A君が借金返済出来なくなっても)関係ありません。B君が注目したのは、A君(低所得者)の支払い能力よりもそれを補償してくれる保険会社の健全性なのでした。かくして、サブプライムローン証券は金利が高い上に保険までついている「魅力的な金融商品」として、世界中の投資家・金融機関にばら撒かれたわけです。
 
ところが、2007年あたりからアメリカの住宅ローン(サブプライムローン証券)はどうもおかしいぞ?という声が出てきました。同年7月には投資銀行のベア・スターンズ(米国第5位)の傘下にあるヘッジファンドが、サブプライム証券が原因で破綻します。続いて8月にはフランスの大手銀行BNPパリバが、ベア・スターンズと同じような状況に陥り、サブプライムローン証券(ワンパックセット)を購入した投資家から解約要求が殺到します。さらに、翌年2008年の3月には、ベア・スターンズ本社が経営破綻の危機に瀕して、JPモルガン・チェースという銀行グループに救済されます。
そして、記憶に新しい9月のリーマン・ブラザーズ(米国第4位)ですが、実はその少し前くらいから「リーマンが危ないらしい」という情報は市場に流れていたのです。にもかかわらず「ベア・スターンズが救済されたんだから、当然リーマンも救済されるだろう」という確信があったため、逃げ遅れた投資家が大勢出てしまったわけです。
 
さて、それらアメリカ国内の金融問題が、なぜ日本の企業にまでダメージを与えているのでしょうか。まず第一に、日本の大手銀行は、ゴールドマン・サックスやリーマン・ブラザーズといったアメリカの金融機関から、とんでもない量の毒リンゴ(サブプライムローン証券)およびCDSを購入したと言われています。それらの銀行が損失を被れば、銀行から融資を受けている中小企業も「貸し渋り、貸し剥がし」などの被害を受け、厳しい経営を強いられることになります。
もちろん、そこには時価会計の問題も絡んできます。財務諸表(貸借対照表)には、投資など会社が所有する有価証券を記入する欄がありますが、従来は取得した時点の原価で記載しておけばよかったものが、時価会計制度が適用されたことで、決算時の市場価格で投資物件を記載することが義務付けられました。
つまり、某証券を100万円で購入したところ、決算時に価値が無くなって0円になっていた場合は、その損失を丸ごと計上しなくてはならなくなったのです。とくに銀行の場合は自己資本比率の規制がありますから、それら不良債権処理の問題はより一層深刻化するでしょう。
第二に、日本の景気は自動車産業(外需依存)が下支えしていたという点。アメリカでは住宅を担保にして自動車ローンを組む人が多いのですが、日本の自動車産業は円安の恩恵を受けてアメリカで自動車販売を増加させていたということが言えます。しかし、今回のように住宅価格が下落すると自動車ローンを払えなくなる消費者も増大して、日本車の輸出は伸び悩み、メーカーは製造にストップ(人員削減)をかけることになります。ようするに、アメリカの過大消費によって日本の輸出産業は本来の実力以上に競争力が高まっていたということで、己の実力を過信した輸出産業(トヨタやソニー)は必要以上に派遣社員を雇ってしまった…、それが現在「派遣切りの問題」として取り扱われているものなのです。
 
リーマン・ブラザーズが破綻した2日後に、世界最大の保険会社アメリカン・インターナショナル・グループ(通称AIG)が、政府機関から巨額の融資を承認されました。このAIGという保険会社は、CDSによって莫大な利益を上げていたので、公的資金注入(つまり税金による救済)には多くの一般市民が反対するところですね。
しかし、このAIGが破綻するのと、リーマン・ブラザーズが破綻するのとでは、経済に及ぼすダメージが違いすぎます。世界最大の保険会社が経営破綻するということは、サブプライムローン証券を補償してくれる最後の砦が崩壊するということです。しかも、リーマンは基本的に金融機関や大企業といったプロ相手にサブプライムローン証券を売っていたものですが
、AIGの場合は、金融機関向けから一般人向けまで、世界中に幅広い保険サービスを提供している企業なわけです。だからアメリカとしては、これからも断固としてAIGを救済していくしかありません。もしもAIGが破綻したら、日本の金融機関が購入したサブプライムローン証券とCDSは全損失としてバランスシートに計上されるので、多くの大手銀行が経営危機に陥るでしょう。そして、その銀行にお金を預けているのは、我々一般人だということを忘れてはいけません。
 
 
posted by もときち at 20:26 | ECONOMY | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする 
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